事業年度変更のデメリット
(1)消費税の免税期間が短くなる可能性
課税事業者に該当するかどうかの判定の一つである基準期間の課税売上高は事業年度が1年に満たない場合、12ヵ月換算することになっています。
例えば法人の設立後1ヵ月の事業年度として、その間の課税売上が100万円であったとすると、基準期間の売上は1,200万円となり第3期目から課税事業者になってしまいます。
免税期間は最長2年だったところ事業年度の変更により1年1ヵ月まで短くなってしまいます。
(2)経営分析がしにくい
通常、法人の経営分析は1年単位で行いますが、事業年度が短くなると単純比較ができなくなり分析がしにくくなります。
(3)コストの前倒し
事業年度を短くすればその分納税時期が早まります。
また税理士へ支払う決算料も前倒しになりますので資金繰りに影響が生じます。
会計事務所として頻繁な事業年度の変更を推奨しているわけではありませんが、いざという時に使えるかもしれませんのでぜひ覚えておいていただければと思います。
事業年度変更のメリット
(1)売上に季節変動の波がある法人
売上・利益が大きく上がる月が期末に近いと節税対策が間に合わない可能性があります。
事業年度を変更し売上・利益が大きく上がる月を期首の近くとすることで決算までの期間が長くなり、計画的な節税対策を講じることができます。
また期首から2ヵ月目に前期の納税となるため、資金繰りも安心です。
(2)思いがけず大きな利益が見込めそうになった場合
事業年度を変更し大きな利益が計上される前に決算することで、その利益を翌期に持ち越すことができます。
翌期首に持ち越した思いがけない利益は、事業計画を策定したうえで広告や設備投資等に効果的な配分をすることができます。
また期が変わりますので役員報酬を改定することもできます。
(3)消費税の簡易課税を選択している法人または免税事業者である法人が大きな設備投資をする場合
急に大きな設備投資が決まった場合、消費税本則課税であれば消費税の還付を受けられていたということがあるかもしれません。
しかし簡易課税選択不適用届出書や免税事業者が課税事業者になるための課税事業者選択届出書は前期末までに提出する必要があります。
この場合、設備投資の前に決算期末が来るように事業年度を変更し期末までに届出書を提出することで、翌期本則課税になることができます。
ただし簡易課税は選択してから2年が経過していないと取りやめできません。
それ以外にも届出書の提出期限が過ぎてしまったという場合に事業年度の変更である程度カバーできる可能性があります。
法人の事業年度変更について
事業年度は定款に定めていることが多いと思います。
例えば株式会社の場合は、臨時株主総会の特別決議を経て定款の内容を変更すれば、事業年度を変更することができます。
内容を変更した定款について改めて公証人の認証を受ける必要はありませんし、事業年度は登記事項でないことから登録免許税がかかることもありません。
事業年度変更の決議後、株主総会の議事録を添付した異動届を管轄の税務署等へご提出ください。
このように比較的簡単な手続きで事業年度を変更できますが注意点もあります。
法人税法上、事業年度は1年を超える期間とすることができません。
また事業年度の変更は株主総会で決議した日以降に効力が生じます。
例えば3月決算の法人が6月決算に事業年度を変更する場合は、臨時株主総会の決議日により以下の通り事業年度が変更となります。
(1)平成29年4月1日~平成29年6月30日までに決議
→ 今期 平成29年4月1日~平成29年6月30日
翌期 平成29年7月1日~平成30年6月30日
※ 事業年度が1年を超えてしまうため、今期を平成29年4月1日~
平成30年6月30日とすることはできません。
(2)平成29年7月1日~平成30年3月31日までに決議
→ 今期 平成29年4月1日~平成30年3月31日
翌期 平成30年4月1日~平成30年6月30日
※ 効力が生じるのは決議日以降となるため、遡って今期を
平成29年4月1日~平成29年6月30日とは変更できません。
もし事業年度を変更する場合には、いつまでに臨時株主総会の決議が必要か注意する必要があります。
利益と資⾦の関係について
キャッシュ(現⾦)の確保と管理こそが肝⼼です!
前述の利益計算についてですが、注意点がございます。
よくある勘違いで、「経費を増やす=お⾦を使う」ことさえすれば、利益が減り節税できる、と思われている場合が多いのです。
また、決算期末時点で資⾦残⾼がほとんどない状態で、「うちはお⾦が残っていないから、税⾦とは無縁だろう」と思われているケースもそうなのですが、まず「お⾦を使いさえすれば経費になる」という勘違いがあります。
お⾦を使ったからといっても、それが設備投資であったり、仕⼊の前倒しであったりでは、それらは全額「経費」にはなりません。
設備投資による⽀出は⼀時の費⽤にはできません。設備投資⾦額を税法で定められた耐⽤年数(例えば⾞であれば6 年など)で割った分だけが「減価償却費」という形で経費になるのです。
また、商品の仕⼊についても、それが期末に在庫として残るのであれば経費にはなりません
(消費税は節税になりますが=仕⼊税額控除できる)。
つまり設備投資と在庫投資を多額に⾏った結果、資⾦は⼤幅に減ったわけですが、それらのほとんどは「資⾦」から「資産」に代わっただけで「経費」にはならないため、決算書は⼤きな「⿊字」となっています。資⾦がない上に多額の税⾦の納税に迫られてしまいます。
納税だけでなく、毎⽉の⽀払(仕⼊代⾦や⼈件費・家賃などの固定費)さえ苦しくなってしまいました。
こんな折に⼩切⼿や⼿形が不渡りになってしまえば、倒産に追い込まれてしまいます!
以上が「黒字倒産」の正体です。いわゆる「勘定あって銭⾜らず」という状態から起こる結果です。
節税のためだけに「無駄使い」はしてほしくありません。上記のような「無駄使いが経費にならなかった!」場合や「⿊字倒産」を危惧する、という理由だけではなく、そもそも「無駄使い」⾃体が税務署には「経済的合理性のない⾏為」だと⾒なされてしまいます。
そうなのです。仮に会社の資⾦からの⽀出であっても、事業に必要のない(関係のない)⽀出は、その経費性すら否認されてしまうのです。
また「うちはお⾦がない会社だから税⾦とは無縁だ」とも思い込まないで下さい。
繰り返しますが、お⾦がなければ税⾦は出ない、という考え⽅は間違っています。必ず試算表から利益をタイムリーに把握し、事前に節税策を講じ、納税資⾦を準備しておいて下さい。
基本的なことですが、やはり「資⾦」と「利益」を勘違いされている経営者も多く⾒受けられますので、あえてここで解説しました。